FC2ブログ

ある屍


わたし昔はほんとうに詩人になりたかった
口がその形を取り言葉が音になった時
わたしはほんとうにそれを手放してしまったのだ
目の前の若い絵描きはビール片手にそれを聞き
へらと笑って相槌を打った
彼はわたしを殴ってもよかったのだ
命を賭けて筆を握ることを選んだ彼の
生きた時間をわたしに重ねることはできない
筆の跡が残らないほど撫でられた跡が
描かれた女の肌を辿る夜を想像させる
言葉を失ってしまったわたしはただそこに在る
完成した作品の隅を覗き見ることしかできないのに

夜に彼への冒涜と自分が首を吊った事を思い出した
死んだわたしは彼に謝罪する権利もない
死んだわたしは今なぜ涙を流しているのか
死んだはずの言葉をこんなにも欲している

スポンサーサイト



2020.08.02 | | コメント(0) | 文字

不要な贄


言葉にならない声が漏れ出る口を塞ごうと
口紅を塗ったら唇の皮が剥けた
肉をこすりあわせて口を閉じた
隙間から叫びが吹き出しているのを誰が気づくだろう

眼は正常に機能している
せかいはうつくしいものばかり
肌は生きている事を教え続ける
風と服、こぼしたコーヒーの熱さで

首から上だけに塗りたくられた肌色が
それでも呼吸をするものだから
よれて歪んで崩れ落ちてゆく
美しくはなれない
誰かから賜った呪いを
わたしが丁寧に育て上げたために

魂が口から漏れ出ているような感覚
それでも肉体は立ち尽くしている
ぼろぼろになった唇と
歪んだ顔とくたびれた洋服
眼球は正しくせかいを捉える
わたしだけ映さないでいてくれるのは
やさしさなのだろうね

テーマ:詩・ことば - ジャンル:小説・文学

2020.07.17 | | コメント(0) | 文字

きみがすきだ


きみをあらわす言葉を知らない
だから黙ったままでいる
きみを喜ばす言葉を知らない
だから困りはてている
きみが次に口にする言葉を
望みながら怖がっているのはなぜだろう
きみからもたらされる言葉が
ぼくをころすかもしれないから

きみの中身をぼくは知らない
きみの過去だけをぼくは見る
きみが笑いかけたものがなにで
きみが泣いたものはなにか
きみの明日が来るのがかなしい
ぼくはまた知らないことがふえるから

ぼくはきみの明日にいるだろうか
きみはばかねと笑うだろう
ぼくはころされてもしょうがない
きみを信じたくないのだから

きみはぼくの指先にふれた
きみは明日のぼくの予定を聞く
ぼくは明日のきみをおもう
明日こそきみを美しいと言いたい

テーマ:詩・ことば - ジャンル:小説・文学

2020.07.08 | | コメント(0) | 文字

呼吸


首の付け根を掴まれて
握り締められているように苦しい
空気を求めて蛙のような声が出た
私の言葉は空に溶けない

自由になりたい
いったい何から

鬱屈とした湿度の
だらしない部屋の中でひとり
歌をうたおうとして
涙声で笑っている

喉元に喰い込んでいるのは私の指だ
肉体を強張らせているのは私の体
求める言葉が私から生まれない
求める私は私から生まれない

テーマ:詩・ことば - ジャンル:小説・文学

2020.06.12 | | コメント(0) | 文字

無題

彼女にとって私は異質だった
人並みの人生とは到底思えないことだった
理解はしようとしてできるものではない
だから彼女はわからないと言った

私の「人並みの人生」というものは
私が歩んできた道そのものだったので
言葉は表情は衝撃でしかなかった
目の前にいる他人は否定こそしないものの
私という同じ人間のひとつを分かち合えない
私にとって彼女の人生が不思議でたまらないように

眼球はどれとして同じものではないのだと
考えたのはまだあどけない少女の頃
けれどその意味と
きらめくような美しい感情がはじける瞬間と
絶望など甘やかに思えるほどの乖離は
まだおとぎばなしのように感じられていた
水分に守られていなければ世界を見渡せない気管
皺を刻み続ける指先のほんの少しの距離
この皮の中がどうなっているかなんて
あんたに分かるはずもないでしょう
怖くて怖くて言葉を投げ捨てた
私は単なる臆病者でしかなかった
彼女の眼球は風景を思い出を
明日を見る
私を見る
私の眼球は風景を思い出を
昨夜を見る
彼女を見たくない

他人から視認されて初めて認知される「私」なのに
孤独も消滅も選べない
柔らかい皮膚の裏側をなでるような会話は終わり
あなたと私の間にはいつも通り
言葉があり沈黙があり空間がある
別個体の何を推し量るというのか
手段をもってして生より残酷な空間ができあがった
彼女が昨日と同じ笑顔できらめく
既に同じ分類の物体ではなくなっているのではないか
恐怖ばかりが私の瞼を縫い付ける

2020.06.06 | | コメント(0) | 文字

«  | ホーム |  »

プロフィール

nozoki koihsi

Author:nozoki koihsi
詩と日記。主に詩。
カテゴリーは「文字」になってます
書き散らしの場
2010.3.23mi○iからエクスポート

(c)nozoki koishi
当サイトに掲載されている文章の無断引用・転載禁止

counter

FC2ブログランキング

FC2Blog Ranking

ランキング参加しています 気に入ったものがあればおねがいします

検索フォーム

QRコード

QR